米国型不動産売買仲介モデルの導入により業界を変えていく
~その事業戦略と同業他社にはないブランド戦略の考え方とは~
久木田: 本日は、バイヤーズエージェントやセラーズエージェントといった米国型の不動産売買仲介モデルを展開されている(株)コールドウエルバンカーアフリエイツジャパン 代表取締役 定村吉高氏に、本モデルの日本への導入に関する現状と今後の展開についてお話をお聞かせいただきたいと思います。
コールドウエルバンカーとの出会いと日米の不動産業界の違い
久木田: まず初めに、米国が母体のコールドウエルバンカーと定村社長との出会いについて、教えていただけますでしょうか。
定村氏: 私が以前勤めていた不動産会社が、バブル前に海外投資を進めていました。その流れで、米国に事務所を設立することになり、そこに役員として5年間滞在していたときにコールドウエルバンカーに出会いました。
久木田: そこでは、やはり日本と米国の不動産マーケットの違いや日本の不動産業界の問題点などを強く感じられたのでしょうか。
定村氏: そうですね。
勤めていた不動産会社は研修が多かったこともあり、それまで私もそれなりに勉強をしてきたつもりでいたのですが、米国にいくと、その経験や知識が全く通用しなかったですね。
米国では不動産情報の種類や取り扱い方など、日本の不動産業界とは根本的な考え方が違いました。
不動産取引の仕組みが全く違うと言ってもよいかもしれません。
不動産の見方そのものやその取り扱い方、中でも、住宅購入者の住宅保有に関する考え方や捉え方などが大きく異なっていました。
まずは不動産売買ビジネスの「入口」から変えていきたい
久木田: 我々もこれまで、米国の不動産ビジネスモデルの研究は少なからずチャレンジしています。おっしゃる通り、我々も、日本と米国の最大の違いはビジネスモデルというより、それを成り立たせる国民の住宅保有に対する考え方、イデオロギーの違いによるところが大きいと感じています。
だからこそ、米国型の不動産仲介モデルの理論的優位点は十分に理解できるけれども、日本で、それをそのまま活用するのは難しいのでは考える有識者も多いようです。
そんな中、御社が日本で米国モデルのビジネスをスタートさせることは、大きな決断と勇気が必要だったと察しますが、いかがでしょうか。
定村氏: おっしゃる通り、勇気と決断は必要だったと言えます。しかし、それを決断できた背景に「日本の中古住宅流通は今後もっと伸びる」と確信していたということが挙げられます。優良宅地や建物等の資源の枯渇が迫っている中、ストックを活用していくことは当然の流れだと考えているのです。
そのような背景を踏まえた上で、ご指摘のあった「文化やイデオロギーの違い」をどのように乗り越えていくかという部分に壁があるのも事実です。
これに対しては、不動産流通に関する「入口」と「出口」の両面から、システムを変えていく必要あるのだと考えています。まず当社は、米国型の売買仲介システムを日本に導入することで「入口」の部分から日本の不動産ビジネスを変えていこうと考えているのです。
「出口」に関しては、近年大手不動産会社でも取り組みが始まっていますが、資産価値の再評価を見直さなくてはならないと思っています。その再評価には、ファイナンスが付かないと意味のあるものになりませんので、これはかなり大きな取組になるはずです。
もちろん「出口」にも視野を置きますが、当社では入口の部分を変える先駆者となり、中古住宅市場の活性化の一端を担いたいということで日本市場に出てまいりました。
久木田: なるほど。定村社長のおっしゃる「出口」については、具体的には住宅ローンのノンリコース化やリバースモーゲージなどが挙げられますね。このあたりは新政府となった民主党の住宅政策の中にも、取り組むべき課題としてこのような制度の具体名まで挙がっています。
それもあってか、日本の不動産会社も、中長期的には現在のモデルから変化していくことの必要性に気付いており、そのための準備をしていこうと考えている会社も存在します。しかし、あるべき論と現場の現実とのギャップが大きくて、抜本的な改革には意識の上でのハードルが高いというのも現実だと思います。
そうした中、御社は、加盟を希望する一般不動産会社に対してどのようにご説明されているのでしょうか。
定村氏: 確かに今は、「総論賛成、各論反対」という状況だといえますね。これに対しては、きちんと数字での比較、定量評価をしていくしかないと考えています。
例えば、現状を見ると、両手にこだわっている大手不動産会社でも手数料率は4%強であり、それは年々低下しています。実際に自社の手数料率をよくよく見てみると、手数料率が3%を割っている会社もあるのです。つまり、買主、売主双方から手数料を頂く両手取引が効率的で、有益なビジネスモデルだと言われていても、実際には、既にマーケットがそれを許さない状況になっているということです。
このように過去の既成概念や業界の慣例に囚われる事なく、具体的な自社の数値面を客観的に見つめなおし、戦略の見直しの必要性を説くしかないといえます。
久木田: 加盟の問い合わせは、既存の不動産会社からが多いのでしょうか?
定村氏: 問い合わせに関しては、これから不動産会社を始められる方からのほうが多いのですが、実際の契約は既存の不動産会社が多いですね。当社FCに加盟後、エージェント制の認知を高めるのにある程度の時間を要することがあるようですが、多くの会社で、その効果が顕著に現れ始めています。
認知度とブランドとは同一概念ではない
久木田: 現状は48店舗だとお聞きしておりますが、店舗展開の目標をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
定村氏: 当面の目標は100店舗を目指しており、ここまではある程度のスピード感をもって達成したいと考えています。
目標達成を急いではいるものの、当社の考えをしっかりと具現化できる会社に加盟していただくことを当初からの目標としております。
当社としては、加盟店の数で勝負をしようとは考えていませんので、あくまでも質を追求した店舗展開を目指しています。
久木田: 一般の消費者に対して、御社のビジネスモデルの内容や御社の名前を認知させていくことは避けて通れないことだと思いますが、そこに対する対策やブランディングはどのように考えていらっしゃるのでしょうか。
定村氏: 私どもでは、ブランド力と認知度は似て非なるものであると認識しております。
長期的視点に立つと認知度は最初から必要なものではない、それよりもブランド力を高めることが重要だと考えています。
ブランドとは企業が消費者に対する「約束」であり、ルイ・ヴィトンやベンツなどのような老舗企業のブランド戦略を不動産業界に持ち込みたいと思っています。
その為には、「主張をし続けて、主張にぶれがなく、主張の約束を守っていく」これを現場で実施し、その姿勢を見ていただくことが重要です。そうしなくては、大きな変化も起こせないはずです。ですから、当社ではブランドとは何かという研修も重視しています。
また、ご存知だとは思いますが、マス広告による認知度先行型のブランド戦略は長続きしないことも明白です。
ルイ・ヴィトンやベンツの名前を挙げられましたが、一般的にそのような企業と不動産会社との最大の違いは、顧客との接点の頻度、期間といえるでしょう。そうすると、御社が考えるお客様との関係は、通常の不動産会社のような一度きりの取引が終われば、それでおしまいというような関係ではなく、永続的な関係を作っていく必要があるということでしょうか。
買主との永続的な関係構築を可能とするサービス
定村氏: その通りですね。当社では、「販売時の4倍の力を販売後に使え」や「購入時が取引のスタート」ということがよく言われています。
そのため、購入していただいたお客様の利用価値を高めていくための仕組みが整っていることも特徴かもしれません。そうすることで永続的に関係を続けていくことが出来るのです。
具体的なサービスには、住宅の定期的なメンテナンスがあります。新築の売主によるサービスでは普通ですが、中古の仲介会社では稀な取組ではないかと思っています。
他には「高く売却できた事例」や「インテリア情報」を提供していきたいと考えています。これらを継続して実践していくことが重要ですね。
久木田: そうすると、やはりリピート率や紹介率は高いのでしょうね。
定村氏: そうですね。リピート率・紹介率は圧倒的に高いですね。
個別にカルテのようなものも作成しておりますので、フォローと同時に情報を蓄積しています。そのため、その住宅の価値を一番理解しているは当社であると言うことが出来るのだと思います。
久木田: 現状の我が国の不動産仲介会社のビジネスモデルは、単純に売りたい人と買いたい人を結びつけるマッチングビジネスであり、その原理は非常に原始的だと言われています。
一方で、市場が成熟化しつつある昨今、このマッチングモデルだけでは生き残りが難しくなってきています。そうすると今までのお話にあったようにその前後にも何らかの価値を付加していく流れが自然なのですね。
定村氏: 私は、今までのビジネスモデルは既に崩壊しているのではないかと思っています。
ご存知の通り宅建業法上の重要事項説明の責任が重過ぎるのです。ですから、単純に仲介を気軽にやりたいと考えている人は少ないのではないのでしょうか。
そういったこともあり、この業界は大手の寡占化が進んでしまっているのです。この寡占化は硬直化も招くため、大手にとっても好ましくない環境になりつつあるとも言えるのではないでしょうか。
日米不動産市場の現状と今後の動向
久木田: 最後に、今の世界的な不動産不況についてどのような認識をもたれているのか、お話いただけますでしょうか。
定村氏: まずアメリカの不動産市場についてですが、コールドウエルバンカーでは全米3900の店舗から取引情報が上がってきており、現状では下がっている場所が半分・上がっている場所が半分という状況です。実は上がっている場所も半分ぐらいはあるのです。
マスコミやエコノミストの見方は、サブプライム問題が表面化して以降「米国の住宅市況は下がってきている」という情報を発していますが、それは新築住宅のみを見ているからであり、米国の住宅市場全体を適切に表現しているわけではないと思っています。
なぜなら、米国では新築住宅の約3.5倍の規模の中古住宅が流通しているからです。新築住宅の動向のみを見て米国の住宅市場の動向を評価するのはやや乱暴な気がします。
日本の不動産市場に関しては、よく「二番底は来るのか」という質問を受けることがあります。この問いに関して私は、「いつか」という点が不明瞭のまま二番底が来ると考えています。
前回のバブル崩壊では、崩壊後に金融機関が抱える不良資産が一斉に出てきました。それが不動産の更なる下落を招いたため、二番底が明確に存在しました。
今回の場合は、日本の金融機関がサブプライムローン等によるバランスシートの毀損の被害が少ない為、まだ不良債権を抱え続ける余裕あります。そのため、前回のような金融機関の不良資産の吐き出しによる二番底というものはないと見ています。
ですが、世の中は深刻な不景気ですので、中小企業や個人から徐々に出てくるため、不明瞭な二番底となるのです。緩やかな下落がしばらく続くため、底という表現そのものが適切ではないのかもしれません。
では、その下落はいつまで続くかというと、やはり米国経済の動向が強く影響すると思います。
私は経済学者ではないのですが、米国は、過去のITバブルやその前のバブル崩壊の事例から見ると、おおよそ2年程度で復活しているケースが多いようです。そして、その後1年~2年遅れで日本の回復が始まります。
先ほど申し上げたように、中古住宅流通の観点から米国の不動産市況を見ると、おおよそ半分程度まで回復し始めています。そうなると、日本の不動産市場の復活は、だいたい2年半~3年後になるのではないでしょうか。
久木田: なるほど。中古流通市場の観点から今の米国の不動産市場を見ると、既に回復基調にあるということですね。ただそれでも、まだ完全復活には1年以上はかかるということ。
全米3900店舗の数値を見ていらっしゃる定村社長だからこそ、説得力がありますね。
今後とも御社の、「業界に先駆けた新しい取り組み」が消費者、不動産会社、業界全体にとって良い結果を生み出すものであることを、定量的に証明しながら、目指される高品質なブランド力を構築されることを、心より、期待しております。
本日は、大変貴重なお話をどうもありがとうございました。
経営コンサルタント 久木田光明の視点

業界に新しい風を吹き込むインフルエンサーは、その手法やモデルの理論的正当性への拘り以上に、業界や市場に対する熱い思いや、確固たる信念に基づいた理念を持っているという共通項が挙げられる。定村社長もまさにその定型であるように感じた。ご自身の経験も踏まえながら、理念を具現化させるための行動としてまずは「不動産流通の入口」を変えるという視点でこのコールドウエルバンカーのモデルを浸透させていく。
対談でも、様々な私の質問に対して、終始、明瞭かつ信念を持った闊達な口調で、語って頂いた点が印象的だった。
定村社長のそのような思いは、「ブランド」に対する考え方からも垣間見られた。ブランド力と認知度とは異なる概念だときっぱりと言い切り、顧客に対する「約束」を守り続けることがブランドであるとおっしゃっていた。この考え方もまた、企業と顧客との関係が、売買契約終了と同時に、終わってしまうようなこれまでの日本の不動産仲介モデルの中では、生れ難い発想であるといえよう。
現実問題として、この新たなモデルを業者にも顧客にも本当の意味で浸透させるには、まだまだ時間がかかるであろう。しかし、ある程度の中長期の視点を持って目指すべき理想の姿にこだわり続けることは非常に重要である。
多くの業界、市場においてデファクトスタンダードを作り上げ、覇権を握った企業の多くも、当初はコールドウエルバンカーと同じような状態からのスタートであったのであろう。我が国の不動産仲介業界における新たなデファクトスタンダードを作りあげる可能性のある定村社長、コールドウエルバンカーアソシエツジャパンの動きに期待し、今後も注目していきたいと思う。
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船井総研内に発足した不動産ビジネス専門のコンサルタント集団 リアルエステートビジネスチーム(REBチーム)のプロジェクトリーダー。「脱業界常識」をコンセプトに大手から中堅、中小に至るまで多様な企業に対応したコンサルティングを提供。最近は不動産金融分野への進出も始めている。